外来種であるセイヨウタンポポは開発された都市的環境に、在来タンポポは土地改変の影響が少ない環境に分布するとされ、両者の分布特性によりタンポポは都市化の指標植物として位置付けられてきた。近年両者の自然雑種形成が確認され、これまで愛知県等4地域で分布調査が実施されてきたが、全国規模での分布の実態は明らかにされていない。そこで本研究では全国規模で採集されたタンポポ属植物について雑種識別を行い、雑種の占める割合及び分布域を把握した。
2001年第6回自然環境保全基礎調査「身近な生き物調査」春調査タンポポ調べにより、全国各地から採集された形態的にセイヨウタンポポとみなされるサンプル(以下、見かけのセイヨウタンポポ)のうち、痩果が添付されている個体についてその種子を播種し、育成した個体を雑種識別の解析に用いた。芝池ら(2001)が開発した雑種識別法に基づき、DNA含量・葉緑体DNAの塩基配列(核DNAの塩基配列、染色体数も補足的に用いる)を指標として、見かけのセイヨウタンポポを4倍体雑種、3倍体雑種、雄核単為生殖雑種、セイヨウタンポポの4種類に識別し、それらの全国規模での比率を調べるとともに、サンプル採集地点の位置情報をもとに全国分布図を作成した。その結果、見かけのセイヨウタンポポ844個体のうち84.5%が雑種であった。雑種の内訳は、4倍体雑種が463個体(54.9%)、3倍体雑種が174個体(20.6%)、雄核単為生殖雑種が76個体(9.0%)であり、セイヨウタンポポが131個体(15.5%)であった。この構成比を都道府県ごとに比較した結果、関東地方や東海地方では、雑種の占める割合が極めて高い傾向にあった。
次に、都市的環境におけるタンポポ属植物の分布様式を検討するため、関東地方のサンプルを対象に、3タイプの雑種タンポポ、セイヨウタンポポ、在来タンポポ(カントウタンポポ)それぞれの分布図を作成し、市街化状況との対応関係を解析した。解析には、第2回自然環境保全基礎調査の表土改変状況調査1945・1960・1975年表土状況図と、1991年国土数値情報土地利用データを用いた。
関東地方から収集された調査票は1075枚あり、そのうち在来タンポポのサンプルは379個体、見かけのセイヨウタンポポのサンプルは642個体あった。見かけのセイヨウタンポポのうち雑種識別に用いた388個体は、セイヨウタンポポが6個体(1.6%)、雑種タンポポが382個体(98.5%)という構成であり、雑種の内訳は4倍体雑種が275個体(70.9%)、3倍体雑種が92個体(23.7%)、雄核単為生殖雑種が15個体(3.9%)であった。これは神奈川県平塚市において浜口らが250mメッシュ単位で調査した結果(98.1%が雑種)に沿うものである。また、在来タンポポ及び雑種タンポポのそれぞれについて3次メッシュ単位で分布図を作成するとともに、タンポポが採集された735メッシュのうち1991年までに市街化された288メッシュについて、1975年以前に既に市街化されていた166メッシュと、1975年以降に市街化された122メッシュに分割して集計したところ、在来タンポポは1975年以降に市街化されたメッシュにも分布するが、それは1975年以前に市街化されたメッシュの近くに分布する傾向があった。一方、4倍体雑種、3倍体雑種の場合は、1975年以前に市街化されたメッシュから離れたメッシュにも分布する傾向が見られた。両者の違いには、フェノロジー、生殖様式及び本来のハビタット要求性などが影響していると考えられ、これらを今後明らかにする必要がある。
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