先輩からのメッセージ

博士課程修了生から

※修了生の所属は,コメントをいただいた当時のものです。

大学3年の冬に所属研究室を決める際、人間の利益と生物の保全が軋轢を起こしている問題に取組みたいと考え、生物多様性科学研究室に入りました。とは言うものの、生態学や保全生物学という学問に触れることは自分にとって初めての経験で、専攻での講義や実習で学んだことは全て新鮮に感じたことをよく覚えています。学部4年から修士、博士課程に至るまで、研究の方針に頭を悩ませ、フィールドでデータを取り、ひとつの研究を作り上げていった経験は、現在の研究でも重要な基盤となっています。また専攻で知り合った同年代のメンバーは、今も研究や他の分野でお互いに協力や刺激をし合える仲となっています。私自身は博士号を取得後、幸運にもつくばにある農業環境技術研究所に研究員として採用されました。現在は学生時の研究テーマをさらに発展させ、鳥類の野外調査やモニタリングデータの解析を通して、全国での個体数変化の把握、鳥類個体群に影響を及ぼす要因の解明、保全管理手法の提案などに取組んでいます。生圏システム学専攻で学んだことを基に、世界で通用するような基礎的研究、日本の生物多様性保全に貢献できるような応用的研究を目指し、日々充実した研究生活を送っています。

(独)農業環境技術研究所 天野達也 2005年度修了

 

私が入学を考えた頃、生圏システム学専攻は設立されて1年目と間もなく、森圏管理学研究室で興味ある研究ができることに加え、新しい専攻ということに漠然たる期待感もあったので私は入学を決めました。この期待は“当たり”だったと入学後すぐにわかりました。私同様に新しい専攻に何らかの期待をもった学生達は入学早々に研究室の垣根なく専攻全体で仲良くなりました。そして同期生を中心に“せっかく異分野の研究をする人が集まったのだから”と、自主ゼミなども行いました。また、先生方や仲間達と交わした色々なディスカッションに加え、今でも私の生物多様性観の重要なベースラインとなっているのは実習での経験です。浜名湖での潮流や海洋生物の調査、金華山でのシカの行動観察、横浜の舞岡公園での里山管理などの実習を通じて、山あり、海あり、里あり、人あり・・・様々な視点から“生圏システム”の多様さを垣間見ることができました。今は独立行政法人森林総合研究所でポストドクターとして、大学院で研究した森林遺伝学についてより専門的な研究をしています。自分の専門分野に没頭する一方、“生圏システム学在籍時のように幅広く外にも目を向けねば”とも思う今日この頃です。フィールドで科学してみたい皆さん、生圏システム学の扉を開いてみては如何でしょうか?多様な世界が待っていますよ!

独立行政法人森林総合研究所 津田吉晃 2005年度修了

 

当時、この専攻に入ってまず驚いたことは、その徹底した「フィールド主義」です。どの研究室も今現場で進行している問題に焦点をあて、地道なフィールド調査に基盤をおいており、授業も「生徒の半数は調査で欠席」ということが日常でした。私もフィールド調査での経験を通じ、自然の仕組みの偉大さや日本の生物多様性の危機的状況を肌身で学ぶことができました。また、専門分野の違う友人達と野外実習や調査の手伝いなどで同じフィールドを共有することも刺激的でした。「保全には何が重要か」「地元の人間活動と折り合いがつくのか」「保全と利用は両立できるのか」といったことで、しばしば朝まで彼らと議論したことを覚えています。現在私は、全国数千人のボランティア調査員と共に日本の生物多様性をモニタリングするというプロジェクトに携わっています。現場を訪れる度に理論や理想では決して解決できない問題を突きつけられ、いかに科学的知見を実社会に即した形で落とし込んで問題を解決していくかが求められます。今思えば、この専攻で培った専門性とともに、そこで得たフィールドでの経験や友人たちとの会話や議論が、今の自分自身の力に繋がっていると強く感じます。

(財)日本自然保護協会 高川晋一 2005年度修了

 

生圏システム学専攻の研究姿勢は、分子生物学など先端の仕事をしつつも、現場にどっかと足をつけて生き物と向き合う地道な研究を疎かにしないことです。フィールドも陸と海と多岐にわたります。同専攻ほど手法も内容も多様性に富んだ学問を実践する場はないでしょう。私にとって、そのような多様さを講義や実習を通じて経験したことが、今の研究者としての基礎となっています。私は現在、同専攻の協力講座でもある浜名湖にある水産実験所に博士研究員として勤務しています。研究テーマは、魚類の種間や種内に表現型の多様性を生み出す遺伝機構を解明することです。この研究は、生き物を飼うことから始まり、表現型を定量的に評価し、さらに遺伝子(DNA配列)の多型を読み取るといったステップがあります。そのためには、研究室内での実験操作を身につけるとともに、生き物たちの微細な差異も漏らさずに見極める目を養わなければなりません。これは死んだ標本と向かい合っているだけでは到底適わないことで、生き物に直に接しながら科学することを同専攻で実践してきたからこそ可能だったのです。皆さんにも是非、同専攻に進学し、生き物に触れながら「自然科学の醍醐味」を体感していただきたいです。

東京大学大学院農学生命科学研究科特任研究員 細谷将 2006年度修了

 

私は早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修という他大学文系学科から修士課程を受験しました。大学院では、人文地理学で学んだ社会調査の経験を活かして、環境問題に対応するための地域社会の仕組みを研究したいと考えていました。東大以外にもいくつかの研究室を検討しましたが、第一志望の緑地創成学研究室に入ることができました。自分のやりたいことが分かっていれば、出身大学や学科は関係ないと思います。生圏システム学専攻での研究はフィールド調査が中心です。各研究室が主催する必修のフィールド実習に参加するだけでなく、他人の調査にもついて行き、現場で技術を学び、議論をするのが一番勉強になりました。私の研究テーマは、条件不利地域の農村で住民が良好な地域環境を維持する活動を続けるための支援策だったので、農家にたびたび泊めていただいて、聞き取りや土地利用調査を行いました。現地で調べなければわからないことがあるので、自分で確かめることは大切です。 博士課程修了後は、現在の職場で地球温暖化問題を中心に持続可能な地域環境計画の立案や評価に係る研究しています。皆さんも生圏システム学専攻で自分の活躍できるフィールドを見つけることができればよいと思います。

(独)国立環境研究所 米澤健一 2007年度修了

 

大学生と大学院生の立場は大きく違っていて、それは学ぶ立場から発信する立場に変わるという点につきると思います。この違いは、受験英語と英会話の関係に似ているかもしれません。聞き手がいる英会話では、受験勉強のような単語や熟語の知識の蓄積だけでなく、それらの組み合わせ方や、相手の理解への配慮、そして話題自体も問われます。大学院生時代はまさにこの例のように、いかに魅力的にかつ説得力を持たせて練り上げた研究内容(話題)を論文や講演で表現していくか、ということを徹底的にトレーニングする場だと思います。多くの院生が応用研究に取り組む生圏システム学専攻では、研究成果を発信する上での責任感も問われますので、上記の点は他の専攻に比べても特に重要になります。なぜ唐突にこのような話をするのかというと、私が卒業した現在でも、大学院生時代の研究テーマをやりがいを感じて継続できているのは、生圏システム学専攻時代のトレーニングのおかげだとはっきりと実感しているからです。私の研究テーマは、アマミノクロウサギなど多くの貴重な生物が生息する奄美大島を調査地として、外来種マングースが在来生態系へ及ぼす影響を明らかにする、というものでした。入学後しばらくは、熱意だけが空回りして、奄美大島のシステムが持つ潜在的な魅力を研究計画や成果発表に全く反映させることができませんでしたが、指導教官や他の学生との議論を通して、卒業までには多少なりとも自分の熱意が保全への貢献につながったと実感できるまでになれました。この実感が今のやりがいの根底にあるのです。生圏システム専攻を志望する方々は、皆様すごい熱意を持っていると思います。是非とも大学院生活での活発な議論を通して、皆様の熱意を最大限に社会に生かせるようにしていただきたいです!

独立行政法人森林総合研究所 亘悠哉 2007年度修了

 

私は、地域の身近な自然のことを、人間活動とのつながりの中で理解していきたいと考え、学部4年次に、緑地創成学研究室への配属を希望しました。研究室のセミナーやフィールド調査を通じて、先生方の地域の自然に対する深い洞察力を目の当たりにした私は、その後、迷うことなく大学院でも同じ研究室に進学することを決めました。緑地創成学研究室が所属する生圏システム学専攻には、景観生態学だけでなく、保全生態学や生物多様性科学など、応用生態学に関連する様々な分野を専門とする研究室が集まっています。学生のモチベーションが高く、研究室間での合同セミナーや勉強会が頻繁に開催されているため、所属研究室以外の先輩や後輩とも交流が深まり、色々な人と気軽に研究相談をする機会に恵まれました。
大学院修了後は、農業環境技術研究所で2年間特別研究員としてプロジェクト研究に携わった後、早稲田大学人間科学学術院で研究を続けてきました。卒業後も、専攻の先輩方と共同研究を始めたり、後輩主催の輪読会に声をかけてもらったり、外部のセミナーで発表する機会をいただいたりと、生圏システム学専攻で得たタテやヨコのつながりが、研究を続けて行く上での大きな支えになっていることを実感しています。

東京学芸大学(専任講師) 小柳知代 2009年度修了

 

生圏システム学専攻では、自分の興味の研究を深く進めることができたことに加え、研究に対して広い視点を持つことができたことが非常に良い経験になりました。専攻の各研究室では農地・森林・海洋など様々なフィールドを対象とした研究が行われており、実習ではこれらの生態系における調査研究の手法を学ぶことになります。講義では生態系管理や生物多様性保全といった応用的課題に加え、それらの基盤となる生態学や遺伝学の基礎的な理論も重視しています。こうした実習や講義に加え、異なる研究室の同期や先輩、先生方との議論を通じて、自分の専門分野にとらわれない広い視点で生態系を見る力を養うことができる、というのがこの専攻の特徴だと思います。私は大学院在籍時には、森林におけるシカ-植物-昆虫の3者間での相互作用を主な研究テーマとしていましたが、博士課程修了後は、海岸砂丘における外来種の影響や湖沼沿岸における生物群集動態の解明といった、全く異なるフィールドでの研究テーマにも取り組んでいます。生圏システム学専攻で培った広い視野とフィールド経験は、間違いなく現在の研究の基盤となっていると実感しています。

兵庫県立人と自然の博物館 高木  俊 2011年度修了

 

私が生圏システム学専攻の生物多様性科学研究室に入学して驚いたのは、その研究の質の高さです。研究テーマは基礎(景観異質性と生物多様性など)から応用(外来種管理など)まで多岐にわたり、どれも非常に魅力的でした。また、先生方の熱心な指導や学生同士の活発な議論にも驚かされました。正直、まだ何も分からない自分がこの中でやっていけるのだろうかという不安を感じました。しかし同時に、一体どんな面白い研究が出来るだろうか、という期待も大きかったことを覚えています。修士から博士課程の五年間、上手くいかないことも沢山ありましたが、先生方から丁寧な指導をいただき、優秀な仲間たちから刺激をもらって、やり通せたことは一生の財産です。現在、私は農業環境技術研究所の研究員として研究を続けています。農地における食糧生産と生物多様性の調和という、困難ですがやりがいのある課題に取り組んでいます。何より、日々研究をさせてもらえることに本当に感謝しています。人生は十人十色ですが、これからも多くの方が生圏システム学専攻で学び、それを社会に還元しながら、実りある人生を送っていただければ幸いです。

(独)農業環境技術研究所 片山直樹 2012年度修了

修士課程修了生から

※修了生の所属は,コメントをいただいた当時のものです。

ライオンの子殺しや社会性昆虫の生活など、動物の行動に興味をもち、生圏システム学専攻ではクモの子育てを研究しました。研究というと、本を読んで思考にふけるイメージでしたが、実は泥臭いものです。夏は、フィールドの秩父演習林の山に登りクモの採集や計測をする。冬は集めたデータの統計処理をする。その合間に授業に出て、研究報告をしたというのが正直なところ。クモを究めたい気持ちもありましたが、02年に新聞記者になりました。記者になったばかりのころは、火事や交通事故など、研究と全く違う話題の取材にとまどいました。しかし、しばらくすると、生圏システム学専攻の研究者と記者に共通する適性がひとつあると気づきました。それは「現場(=フィールド)を大切にする」ということです。記者には、事件現場に通って特ダネを拾うことが求められます。これは、まさにフィールドに通い詰めて研究を進めるのと同じ要領です。特ダネがとれたかどうかはさておき、研究の経験は記者生活で思わぬ形で役立ちました。現場力を身につけたい方、生圏システム学専攻をお薦めします。

朝日新聞株式会社 長崎緑子 2001年度修了

 

生圏システム学専攻と云えば、野山や海を実験の場とするフィールド科学専攻のイメージを持たれるかも知れませんが、私の修士論文研究のテーマは、2,000ccビーカー内で生態系が完結する『ミクロのフィールド科学』でした。“研究と産業界の橋渡しが出来る人材になりたい”今思い起こすと大き過ぎる夢を持って私は生圏システム学専攻の水域保全学研究室に入学、研究と産業の間にある水産実学を学びたいと思い、水産養殖業の根幹である初期餌料プランクトン『シオミズツボワムシ』の連続培養に関わる研究を修士論文のテーマとしました。プランクトンが主役であるビーカー内では、森林や草原などをテーマとした生態系研究と異なり、物凄いスピードで生態系が発展し、その後急速に環境破壊が進行、環境悪化により生態系の維持が困難となります。生圏システム学専攻での演習や講義を通じてフィールド科学に関する知見を広める事ができた事で、自分の研究テーマを水産実学としてのみならず、持続的な生態系メカニズムを研究するフィールド科学からの観点からも複眼的に捉えることが出来ました。現在、私は総合商社で水産物を取り扱う部署に勤務しておりますが、水産資源管理のあり方について国内外で話題にあがる昨今、総合商社における業務においても、生圏システム学専攻のテーマである『人間社会と自然が融合した真に持続的な地球環境のマネージメントを創造すること』について真剣に議論する機会が多くなってきております。各人のスタンスにより、理想とする生態系像が異なる状況で、そのあり方について意見をすりあわせ、具体的なアクションに落とし込んでいくことは、非常に難易度が高い役割となりますが、持続的な食料資源確保のために会社での業務を通じて日々尽力しております。

三菱商事株式会社 森本健吾 2001年度修了

 

私は卒業後も大学(附属農場)に残り、助教を務めています。ここでは、我々の生存に不可欠な食糧の生産活動と環境のより良い調和を目指し、持続的農業体系の確立、農業における資源の効率的利用、また、不良環境における食糧生産の安定向上等を目指して研究を行っています。自然生態系を理解するにとどまらず、これと我々がより良く付き合っていくように食糧生産を改良しようとする、総合的かつ実践的な応用生態学であると感じています。このため、農村スケールで農業と環境を捉えるところから、植物の分子・細胞レベルでの現象解明、または農民の生産行為の理解まで、視点は多岐に渡ります。とは言うものの、修士課程で生圏システム学専攻を選択した際には明確なビジョンを持っていたわけではありませんでした。アフリカ・アジア途上国に多く存在する低肥沃・干ばつ地帯の作物生産向上と貧困削減に取り組みたいと希望し、環境と食糧をキーワードとした結果でした。振り返ってみると、(たまたまながら)この選択は非常に良かったと感じています。多くの方々がこの専攻で学び、「行動する科学」を実践していってもらえたら―、このように思います。

東京大学大学院農学生命科学研究科助教 加藤洋一郎 2003年度修了

 

私は、自然環境の保全と再生に携わりたいとの思いから、もともと他大学で里山林の植生を学んでいましたが、できたばかりの生圏システム学専攻の理念とカリキュラムに共感し、入学しました。演習林をフィールドに研究していましたが、研究のための体制も非常に充実していましたし、多様な分野の先生からたくさんのことを教えていただきました。志を共にする多くの仲間もでき、期待を大きく上回る2年間だったと思います。今後の人間活動において、人類の未来は持続可能な循環型社会の構築なしでは、極めて危ういと言わざるを得ません。開発か保護か、経済か環境かといった対立的な概念ではなく、今こそ多様な人・分野が有機的に連携し、限りなくall-winとなるよう知恵を絞る。そういった私たちの叡智が試されています。現在、私は環境省でトキの野生復帰を担当していますが、行政の立場からこのような社会が実現できるよう、日々努力しています。生圏システム学は循環型社会を構築する上で必要不可欠である自然環境の保全・再生に必須の知識・技術の開発に寄与することはもちろんのこと、これまでの考え方では対処しきれない課題解決のためのモノの考え方(統合的かつ順応的なアプローチ)をも養ってくれます。生圏システム学は今の時代が最も求めている分野の一つであり、決してみなさんの期待を裏切らないことをお約束いたします

環境省 岩浅有記 2004年度修了

 

大学院での2年間は,学問的な内容に加えて自分の適性についても知ることができ、とても内容の濃い時間でした。私は研究テーマをより興味のあるものへと変える為に、学部時代に講演を聞かせていただいた先生の研究室に移動することにしました。一からの研究生活でしたが、充実した講義や実習、指導教官の先生の厳しいながらも温かい指導を通して、科学的な考え方、文章の書き方、表現や発表の技術を学び、そして何より生物多様性の素晴らしさや面白さを確信することができました。研究を進めるにあたり、研究室の先輩方からは多くのアドバイスを頂きました。同じ専攻の同級生とは勉強会を開き、議論することで良い刺激を受けました。研究が独りよがりにならないように様々な人から意見をもらうことは非常に大切なことです。教授陣および学生が沢山いるという、人の多様性があることもこの専攻そして大学の大きな魅力だと思います。大学院修了後、高校の教員となり、生物を教えています。教科指導、生徒指導と多忙な毎日ですが、日々やりがいを感じています。授業や課外活動を通して、一人でも多くの生徒の、生物への興味・関心を引き出すことが現在の私の大きな目標です。

白鴎大学足利高等学校教諭,白鴎大学非常勤講師 山野井貴浩 2004年度修了

 

私は生圏システム学専攻の修士課程で幅広い視野で生態学を学ぶことができたと感じています。私が生圏システム学専攻に入学を決めた理由は、協力講座として多くの付属施設・演習林と提携関係があり、研究で必要となるであろうフィールドや設備が充実していることでした。入学して実感したことは生圏システム学専攻を構成する基幹講座の分野の幅の広さです。入学してすぐに開講される「生圏システム学総論」という講義では、基幹講座の先生方が自らの研究分野についてお話され、それぞれの分野の最先端のお話を聞くことができます。また泊りがけのフィールド実習も多く、自分の修士論文テーマとは違った分野の研究を体験できます。実習は他の研究室の生徒と仲良くなるきっかけでもあり、私は研究について熱く語り刺激し合える多くの友達ができました。さらに修士研究を進める中では、他の研究室の先生からも、統計手法について助言を頂いたり、分析機器をお借りしたりして、研究の幅を広げることが出来ました。卒業後は生態学で学んだ経験を生かし、国家公務員として林野庁で働いています。現在は北海道知床半島の現場で勤務していますが、環境保全の議論になったときなどは生圏システム学の講義や同期と語り合ったときに得た知識が役立っています。幅広い視野の上に、自分の修士論文を進めたいと思っている方に入学をお薦めします。

林野庁 越前未帆 2006年度修了

 

私が、生圏システム学専攻に進学した理由は、卒業論文の際の研究(環境浄化植物の作出)を引き続き取り組む為という事に加え、いろいろな事に取り組みたい・体験したいという意識があった事も理由の1つです。生圏システム学専攻の大きな特徴として、他研究室主幹の実習、特に泊りがけでのフィールド実習が挙げられます。私は北海道の演習林や、浜名湖での実習等に参加し、他研究室の研究の一端を肌で感じることが出来ました。自己の研究に打ち込むだけでなく、フィールドの違う他の研究やその研究手法を知ることは、視野を広げるという意味でも有意義であったと思います。また、泊りがけということもあり、他研究室の学生や、先生方と交流を深められ、より研究内容を理解することが出来ました。生圏システム学専攻の学生は他大学から入学する方も多いですが、こういった実習を通じて、他研究室と交流を持つことにより、他専攻以上にまとまりのある専攻になっています。さて、私は修士課程の修了をもって、就職することを選択しましたが、その理由は「いろいろな事に取り組みたい・体験したい」という専攻進学の際に抱いた意識が、やはり強かったからです。自分の研究分野とは全く違う、食品製造業という分野に就職しましたが、学生時代の経験が、思いがけないところで役立つことがあります。人生経験として、いろいろな事に取り組めた生圏システム学専攻での2年間は価値あるものであったと思っています。

東洋新薬株式会社 鈴木誠 2006年度修了

 

私は学部時代にため池のトンボ群集について研究をしていました。研究を通して里山の生物多様性が長年の人の管理によって維持されてきたことを学び、感動したのと同時に管理放棄によって里山の生態系が崩壊していることを知り、歯止めをかけなければ日本の固有の生態系は失われてしてしまうのではないかと思いました。そこで、里山における人の管理と生物の関係を解明し、里山の生物多様性保全の一助となるような研究をしようと思い大学院への進学を決めました。大学院では里山で増加している休耕田・耕作放棄水田を対象に、管理の違いによって見られるトンボ群集がどのように変化するのかについて研究を行いました。研究に際し、先生方にはフィールドの紹介から研究のアドバイスまで色々とフォローしていただきました。何より大きかったのは私の未熟な考えを尊重し、暖かく見守ってくださったことだと思います。同期も非常に大きな存在でした。同じ修士ということもあってかすぐに打ち解け、研究の話にとどまらず気兼ねなく話せる関係を築くことができました。おかげで研究で行き詰まっても乗り越えることができました。以上のような恵まれた環境の中で研究をすることができ、非常に充実した2年間を過ごすことができました。現在は大学院で培った知識と経験を活かし、実践の場で働いています。これから先、大学院時代に学んだこと、感じていたことを実践の場でも実現できるように努力していきたいと思います。

いであ株式会社 土田琢水 2007年修了

 

生圏システム学専攻―耳慣れない名前の専攻です。初めてこの名前を聞く人にこれを説明するのは意外に難しいものです。なので、聞かれるとついつい「生態学を学んでいました。」と答えてしまいがちなのですが、実際に在籍していたときの感覚はもう少し違うものでした。私は、「自然と人間の営みが共存できるような社会を築くにはどうしたらよいのだろうか」という漠然とした、かつ大きすぎる疑問を抱いて、生圏システム学専攻に属する研究室の一つである緑地創成学研究室の門を叩きました。実際に自分が対象としたフィールドは中国の砂漠化地域でしたが、研究室の中、さらに専攻を見渡すと実に多様なフィールドで多様なアプローチで研究している同志がいたので、様々な角度から自然と人間の関わり方について考えることができる、とても刺激的で恵まれた環境だったと感じます。このような環境の中で、ゼミや勉強会、実習の後の現地の人や同期・先生方との交流、自分の研究フィールドでの現地の学生たちとの交流などを通じて、「生態学を学ぶ」だけでは得難いものを得ることができました。それは、自然と人間が共存していくために必要なのは、一つの学問分野での研究の積み重ねだけではなく、学際的な視点、研究成果の外への発信、現地の住民との対話、対策のための費用と人の確保、など、実に多面的な取り組みであるということです。このような視点を以て、自ら掲げた大きな疑問に対して取り組んでいきたいと考え、研究者ではない立場を選択しました。まだまだ道半ばですが、スタート地点として生圏システム学専攻を選んでよかったと心から思っています。

みずほ情報総研株式会社 宮森映理子 2009年度修了

 

私は元々この大学に文系として入学しました。しかし、進学振り分けを前にして文系の学部に全く興味が持てず、文系理系問わず様々な学科の説明会を聞きに行って散々思考の迷路に入った結果、最も興味があると思われたフィールド科学専修に決めました。こんなあやふやな気持ちでの進学先決定と理系転向でしたが、予想に反して充実した研究生活を送ることができました。生圏システム学の修士研究には野外調査・データ解析・考察など様々なステップがありますが、それらのステップを一段ずつ登って行く中で、「何事も理解した気になってはいけない」ということを痛切に感じました。仮説を立てて結果を予想するのは研究のスタートですが、得られた野外調査データが予想通りであることはほとんどありません。得られた結果を元に既存の論文と合わせて柔軟に考察していかなくてはなりません。また、野外調査も突然の悪天候や厳しい波浪で調査自体が難しかったり体力的に辛かったりと、自然相手ならではの困難・不測の事態がままあります。学部時代は全てを“なんとなく”理解した気になり、勝手に“できる・考えられる”気になっていただけだとわかりました。実際現場に出れば何事もわからない、だから十二分に用意して謙虚に何事も真剣に挑んでいく、生圏システム学専攻の基盤にある「現場主義」が身についた3年間だったと思います。

東京大学  立松沙織  2013年度修了